2014-01-01から1年間の記事一覧
1 赤と白と青染められた小さな提灯がいくつもいくつも道路の上に翩翻と揺れている巴里は、ちようど巴里祭でした。提灯の群れとはためく仏蘭西国旗は、水分を多めに含んだ濃紺の空にすばらしく良く映えました。 「巴里よ!自由の国だわ!」 星子さんは軽やか…
カモメの交わす声もかまびすしく、眩い朝日が窓からキャビンに丸い光を突き刺してゐました。 「ちよ、ちよつと!そんなに勢ひよく突き込んで、まさか本当に中に出すつもり?やめて頂戴!アヽッ」 「だつてモウ入れちやつてるんだから止めやうつたつて止まら…
星子さんと僕はふたゝび船の人となつてゐました。アメリカから出航したノルマンディ号は轟々とたゞ一筋に欧州を目指してゐます。ノルマンディ号はツイ去年の一九三五年、フランス・ラインに就航したばかりの最新鋭豪華客船で、其の流線型のフォルムは如何に…
四十二番街には本や映画で知つてゐるだけの有名な劇場が建ち並んでゐます。しかしお昼前のことですから、何処もまだ公演を打つてゐません。 「なあんだ。詰まんない」 星子さんはブロードウェイの舗道に仁王立ちになつてネオン灯の落ちた看板を眺めながら悔…
サヴォイ•ボールルームの外は朝日の眩しい、白茶けた街でした。真紅なボディのブガッティが土埃を巻き上げるやうな爆音をあげてダウンタウン方面へ走り去りました。ボールルームの客なのでせう。 「あれは1936年型のアトランティックといふモデルよ」 星子さ…
「凄いわ!見て御覧なさい」 マンハッタンの街で上空を見上げて星子さんが感嘆の声を漏らしました。彼女が軽く飛び跳ねながら指差す先に、エンパイヤ•ステイト•ビルやクライスラア•ビルといつた摩天楼の天辺すれすれに腹をかすめるやうに、巨大なツェッペリ…
1 或る日、お天気がいゝのでウキウキと気持ちよくなつてお屋敷の長い長い廊下を暑いくらいの陽光に差されながら、タタタタヽヽヽヽと高々とお尻を掲げて雑巾がけしてゐたら、前方からミニ戦車に乗つた星子さんがキュルキュルキュルキュルとやつて来て、砲塔…
1 チュンチュンといふ雀の声に誘はれて目を覚ますと、目の前が真暗でしかも布団をかぶつた下半身にまつたりとしてゐながら切迫した尖鋭的な快感が押し寄せてゐました。手を伸ばして確かめやうとしたら、両手も縛られて既に痺れてゐます。熱く包み込まれるよ…