さへずり草紙NEO

旧はてなダイアリーを引き継いでいます。

2012-06-01から1ヶ月間の記事一覧

「ルル伯林へ行く」(下)

クールフュアステンダム通りは、四月といふのにまだ分厚い外套を着こむだ紳士淑女でごつたがへしてゐました。空気の澄んだ真青な空に赤と白と黒の鉤十字旗がはらはらとはためいて目にも鮮やかでした。通りの街頭ごとに旗が飾してあつて、赤い波が通りの彼方…

「ルル伯林へ行く」(中)

赤い翼の航研機はプロペラの軽い振動を機体に伝へて、切れ切れの雲と冴へた青空を只ひたすら西に飛んでゐました。幾つもの計器の針がフラフラと丸い計器盤で踊つてゐます。僕は機内の凄まじい寒さに歯の根も合はず、毛布にくるまつたまゝ、ルルに話しかけま…

「ルル伯林へ行く」(上)

夢の中で綺麗な奥様に乗り掛かられて騎馬位で散々に精をやらされてゐましたら、外界からルルに 「雪夫さん、雪夫さん」 と呼ばれて意識がはつきりとし、パッチリと目が覚めました。薄手のレースのカーテンを通して朝日の強烈な光が目を射りました。僕は目を…

「ルルの大放送 "Broadcast of LULU 1936"」

1 或る日、お腹がすいたので食堂へ行かうといふ態でお屋敷の一階のサンルームを横切りましたら、いつのもの昼前の習慣でルルがソファにゆつたりと凭れて、冬のあたゝかい日差しを浴びながらフランス製のノートになにやらさらさらと描いてゐました。 「ルル、…

「大東京變はり錦絵 お屋敷の元旦」

大晦日を部屋に引き籠もつてラヂオの演芸番組を聴いてゐた僕は、ルルの呼ぶ声で階下に降りますと、ルルに「アラ」といふ顔をされました。 「雪夫さん、初詣にはご一緒しないのかしら?」 「僕は其んな楽しい計画は聞いてゐませんが。」 「パンピネオ。雪夫さ…

「ダンスホールのルル」

木曜日の朝、さはやかな青空を余所に昔懐しいお屋敷の自分の部屋で読書を楽しんでゐましたら、一階の奥の風呂とおぼしき辺りからルルが「雪夫さん、雪夫さん」と呼ばはる声がするので、僕はあはてゝ本を傘に伏せて扉を飛び出し、ドタドタと階段を降りました…

「ルルの豪邸」

或る日、いつものやうにピエルブリヤントの常打ちになつてゐる松竹座の、餘つた楽屋にごろんと横になつてゐたら、掃除のをぢさんに箒の柄でたゝき起こされました。 「小僧、甘い顔してりやあ居ついちまひやがつて。叩き出すからさう思へッ」 僕は柳行李ひと…

「ルルの誕生會」

1 ヱノケン先生が映画を撮るといふので、僕は小道具を沢山持たされて、沢山のワンサガールと一緒にトラックで砧のPCLスタヂオに運ばれました。スタヂオにはカフヱーの装置が組まれてゐて、綺麗な千川輝美さんやベーちやん先生や女給の役の女優共が、リハーサ…

天下一品のポスター

大下品歌祭り。

「パンピネオの戀心」

赤くけぶつた大きな月が、松屋デパートの上にぽっかり浮かんでいました。 窓から入る月の光があんまり眩しいので、僕は支那更紗のカアテンをシャーと閉めて、劇団の雑用に草臥れた体を、給仕室の汚い畳にゴロンと横たへました。僕は二村定一さんの処を追ひ出…

「金絲鳥のルル」

奥様のお屋敷を飛び出した僕は、二村定一さんに誘はれるまゝに、田島町の二村さんの下宿に転がり込むことになりました。ルルは電気館の楽屋で二村さんに 「べーちやんせんせ、この子よろしくね」 と云つて僕を引き渡しながら、紅い唇を舌でちよつと舐めてニ…